森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

森野きりりの漂流日記

歳をとったらテレビに守りをしてもらうの

働くのを卒業したら、日がな一日テレビを見て過ごしたいと思っていた。 テレビの前にいるのはわたしひとり。 ひとりだけど、その背中は寂しそうではない。平和で静かな時間が流れているのがわかる後ろ姿。 見るのは刑事ドラマかお笑い番組。 刑事ドラマは必…

未確認飛行物体

今と違って家の中も外も、夜中は漆黒の闇だった昭和三十五年ころのお話。 夜中にフッと目が覚めた。 天井を眺めて (あれ?) 真っ暗闇の夜中、天井が見えるはずがない。 首を回すと… 窓の外からすごい光が部屋の中に射し込んでいた。その光が天井を煌々と照…

謎のリングその後

昼間は暑いけど、朝はずいぶん涼しくなったね。 ウォーキングには本当に気持ちの良い気候だ。 風が変わって… 季節が移っていく… 空を見上げると、思わず「ほーっ」と深呼吸をしてしまう。 稲刈りが終わった田んぼが、歩く度に増えている。 今朝早く読んだ記…

文学少女が生まれた日

幼いころから本には馴染んでいた。 本の虫になったのは中学一年生の時の、小さな出来事がきっかけだった。 その出来事というのは… 静かな放課後。十三歳のわたしがいる。 その日、図書室でドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読んでいた。 ドストエ…

腑に落ちる言い訳

運転中って何してます? 車の免許をとったばかりのころは、運転に集中したいのでラジオもCDも聞かず無音で運転していた。 「えっ!なぜ、こんなに静かなの?」 と、驚かれるくらいに静かに静かに走っていた。 今はエンジンをかけるとクラシック音楽が流れる…

こちら現場です!

今日は水曜日。カレーを作る日だ。 急いで整骨院に行って、ささーっと帰ってくると早速玉ねぎを切り始めた。 (今日の玉ねぎは固いな!) いつもは、気にしないそんなことを考えながら、黙々と玉ねぎのみじん切り。 お店で五キロ入りの玉ねぎが二種類並んで…

敬老の日を受け入れる日

ピンポーン! 玄関でチャイムが鳴っている。 そのへんに置いてあるマスクをつかむと玄関に急いだ。 地区の公民館長さんが笑顔で立っていた。 「今日は敬老の日のお祝いを持ってきました」 「それはそれは、ありがとうございます」 わたしも笑顔で応対する。 …

公害じゃなくて香害?

香害に苦しんでいる人がいると新聞の記事で読んだ。 香害…? 何かで目にしたことはあるかも知れないけど、はっきりとその言葉を認識したのは初めて。記事によると香害がきっかけで『化学物質過敏症』という名前の病気を発症するひとが増えているらしい。 香…

ジリジリ太陽の下、旗を振る女の子

腰の具合は相変わらずです。いい時もあり悪いときもある。 どんなに気をつけても調子が悪いときは、毎日整骨院に行きたい。一日置きでもいい。 ところがね、それが簡単ではない。 歳をとると頭で考えてることが、すぐに行動に移せないのが大きな理由。 整骨…

『早くしなさいおばけ』『もうなんでおばけ』

むかしむかし、こども達が幼稚園に通っていた頃のこと。 我が家には 『早くしなさいおばけ』 というおばけがいた。 そのおばけは夜ではなく、朝出てくる。 「早くご飯食べなさい」 「早く歯を磨きなさい」 「早く洋服を着替えなさい」 「早く靴を履きなさい…

「わたしは阿蘇で生まれましたとよ。あなたは?」

母が施設に入ってあっという間に一年半が過ぎた。 荷物をまとめて、小さな引っ越しをしたのを昨日のことのように思い出す。 「今日から、ここのベッドで寝てね」 と言うと、 「うん、わかった」 拍子抜けするくらいにあっさりと答える母。 「家じゃないのに…

歳をとっても未熟者

お隣さんに回覧板を持っていったときのこと。 あいにく留守だったので、玄関ドアの前に回覧板を立て掛けてそのまま帰った。 次の日 (気がついてくれたかなー) 門扉の陰からそっと覗いた。見えない。 (まっ、いいかー) 帰りかけて、もう一度覗いた。 ふと…

潮時、引き際、そろそろ受入れ態勢…

お年寄りが車の運転をしていて、アクセルとブレーキを踏み間違えたというニュースがまた流れてる。 高齢者の数が多いんだもの。そりゃあ、そんな事故も増えるよね… 「それにしてもブレーキを踏もうとして、アクセル踏んだりするかなあ?」 わたしはどうだろ…

先生も生徒も日々精進

高校を卒業して大人の仲間入りをした十九歳の夏。 いつもの朝。 仕事に追われて、ビタミン剤飲んで、あごを突き出して通勤電車を待っていた。 壁に貼られたポスターを見るともなしに見ていた。…次の瞬間そのポスターにピタリと焦点が合った。 ダンスサークル…

伝播する感情ことばのちから

新聞を広げたら、まずどこから読みますか? 一面?テレビ欄? それとも三面記事で身近なニュースをチェックする? わたしが一番に開くのは人生相談のコーナーがあるページ。 ひとさまの悩みが気になって気になって…ということではないよ。 悩みの方ではなく…

謎のリングと潜水艦

いろいろあって中断していた朝のウォーキングを再開した。 正しい姿勢を心がけながら力強く歩く。一歩一歩が腰の矯正になっているのをイメージしながら歩いていると、気のせいかずいぶん良いような気がする。 季節はもう真夏。 朝六時前に出発しても、歩き始…

腰痛再燃

腰痛はいつものことだけど、最近の痛み方はちょっと気になる。重苦しい痛みではなくてピキッピキッと痛みが襲う原因は分かっている。 実は…ウオーキングをしていない。 (怠け心ではないよ。断じて!) 朝、歩く時間がとれないのだ。 頭の片隅にウオーキング…

柿とミカンと姉

毎年秋になると田舎で一人暮らしをしている祖父から、ダンボールいっぱいの柿が送られてきた。柿が届くと母が丁寧にお礼の手紙を書いていたのを思い出す。 学校から帰った姉が、嬉しそうに両手いっぱいに抱えて自分の机に運び込む。 机の柿が空っぽになると…

還暦のごほうび

若かったころは、還暦と聞くとものすごく年寄りの人だと思いこんでいた。 (還暦になってお祝いされる日なんて、わたしには来ないかも…) そんなことはなかった。シングルマザーになって二十年数年があっという間に過ぎ、他人事だと思っていた還暦がわたしに…

月の誘惑『月光浴』

1998年、姉と二人で写真展を見に行った。 その時、なぜその写真展を見に行くことになったのかは憶えていない。 姉から誘われたのか、新聞か何かで見かけてわたしのほうから誘ったのか… エレベーターを降り会場の前に着いた。暗くて中がよく見えない。 ド…

新宿コマと黄桜

年賀状を書く時期になると、メールしたくなるのがゆみちゃん。 東京で仕事をしていたときの同僚だったゆみちゃんは頭の回転が早くて辛口のコメントが小気味いい女子。 出会ったのはゆみちゃんが二十五歳で私は二つ下の二十三歳。 地方から出てきたわたしと違…

初めてのダンスパーティ!

社会人になって最初の夏が終わろうとしていたときの話。 いつもの朝、電車を待っていたわたしは掲示板に貼ってあるポスターを見つめていた。 「今年のクリスマスは、華麗にダンスを踊りませんか?」 というような内容だった。ような…って。あまりにも遠い記…

ふわふわしっかり絶品卵焼き

かれこれ二十五年くらい前になるかなー。 遠くに住んでいた妹のところへ遊びに行ったときのこと。 こどものころはそんな片鱗は見せなかったのに、いつの間にか妹は料理がとても上手になっていた。 そのときも、わたしのために美味しい料理でもてなしてくれた…

恐怖映画の効能とサングラス

むかしは、これでもかって怖い映画がたくさんあったよね。 最近はテレビで予告とかしていないから分からないけど、わたしが知らないだけで、今でもあるのかなあ。 若いころ、ものすごく怒ったときや、ものすごく悲しいことがあると怖い映画を見に行った。 見…

ホラーから恋愛小説へ『美しい時間』

『墓地を見おろす家』で小池真理子を知ったけど、ホラー小説に興味があるわけではなかった。見えない何かに引き寄せられて手に取ってしまった本が、たまたまホラーだったというわけ。 図書館に行って小池真理子のコーナーに並んでいる本を眺めてみる。 ホラ…

小池真理子が見せてくれたホラー

本屋さんでブラブラと物見していたときのこと。 いつもは絶対に手をのばさないのに、何故か手にしてしまった本を見つめる。 『墓地を見おろす家』 買う決心はついていないのに、なぜか本を持ってレジに向かった。 読む決心はついていないのに、財布をバッグ…

安物買いのセーターと毛玉取り

昨年はコロナ禍で見送ったけれど、毎年暮れが近くなると、仲良し四人(昔の仕事仲間)で忘年会をするのが年末の楽しみ。 年齢はバラバラ。わたしが七十代目前(七十代って本当に驚いてしまう。いつの間になったんやねん!)五十代になったばかりの二人と、四…

学問、芸能、掃除…?

姉妹三人。 それぞれ得意分野がある。姉は学問、妹は芸能、わたしは…掃除。そう!わたしは掃除大臣! 姉は父の期待を一身にうけて、昼も夜も机に向かっていた。どうしたらあんなに長い時間勉強ができるんだろう。わたしと妹は父が諦めているのをいいことに、…

グレイヘアになる覚悟

「髪を染めるのをやめようと思うの」 親しい友人のことばに、ついに来たかー!と思った。 グレイヘアということばが何かと話題になりだしたのは三、四年前くらい前だったろうか。著名人や芸能人が次々にグレイヘアに変身した姿を見せ始めていた。テレビで見…

お母さん、わたしはあなたの娘です

施設に入っている母に久しぶりに会いに行った。 職員さんに両手を引かれた母が、ドアの向こうから現れた。前回会ったときよりまた一段と小さくなっていた。 「ほら、今日は嬉しい人が会いに来ていますよ」 マスクを無理やりさせられ (母はもうマスクが何の…