かれこれ二十五年くらい前になるかなー。
遠くに住んでいた妹のところへ遊びに行ったときのこと。
こどものころはそんな片鱗は見せなかったのに、いつの間にか妹は料理がとても上手になっていた。
そのときも、わたしのために美味しい料理でもてなしてくれた。
食器にもこだわる妹の食卓は、まるで料理屋さんのよう。
「美味しいねー!料理もお酒も」
夜遅くまで、楽しい時間が続いた。
調子に乗ってお酒を飲みすぎたわたしは、翌日の朝は二日酔いで朝食を作る妹をぼーっと眺めていた。
炊きたてのご飯にお味噌汁、焼き魚にお漬物。向こうの方で火にかかっているのは卵焼きのフライパン。
「あれ?火が消えているんじゃない」
そばまで見に行ってみると、極々弱火で卵焼きが焼かれていた。
卵焼きはそっちのけで朝食の準備に余念のない妹。思い出したように卵焼きを見に来るけど、気の短いわたしからすると気が遠くなるくらいゆっくり焼いているようだ。
やがて、準備が終わり食卓についた。
先ほどののんびり焼かれた卵焼きが出てきた。その色に惹かれて思わず手を伸ばした。
「う、うまい!」
どこかのお取り寄せの卵?と思うくらい鮮やかな黄色の卵焼きが目を引く。けれど唸ったのは色にではない。
ふわふわの食感、それでいてしっかりと巻かれた卵が、もうそれだけで立派な一品と言えるほどの存在感なのだ。
(こんなに美味しい卵焼き食べたことがない!)
若い頃から色気より食い気が勝っていたわたしは、お腹が一杯になるのが一番のしあわせで、味や見かけにはそれほど関心がなかった。
そんなわたしもこども達が食べ盛りの中学生になった時には、人並みに弁当作りに意欲を燃やす母となった。広げたお弁当を友達に見られないように隠して食べられたりしたら、ちょっと悲しいじゃない!
わたしの苦手なのは卵料理。デリケートな卵は繊細さに欠けるわたしにはとてもハードルの高い食材なのだ。勢いだけでやっつけるわたしは、上手くいくときより悲惨な結果になることが多い。
「あらーまー!どうしましょ」
が口癖。
ここで思い出すのが、妹の卵焼き。ほったらかしているようで、ちゃんと卵に気を配っていた妹の姿に、何か大事なことを教えられたような気がした。
卵焼きだけではなく、すべての食材にどうやったら一番美味しくなるのだろうといつも考えている。
「食いしん坊だからねー」
と、笑っているけど。
それからふた昔くらい年月が流れ、わたしは介護施設で料理を作る仕事をしていた。
ある日、卵焼きを作っていると、外回りから帰った社長が出来たばかりの卵焼きを見て
「味見していい?」
と、聞いた。
「はい、どうぞ」
ひとくち食べた社長は
「きれいな卵焼きだねー。それにこのふわふわの食感がいいね!」
妹の卵焼きを目標に頑張ったわたしの年月。
ところが、妹にその話をすると
「あら、そうだったの」
わたしの感動を他所に、何とも素っ気ない返事をされちゃいました。