森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

ちいさなはるらんまん

 

外に出ると光が押し寄せてくる。

まぶしい春の陽射し。

次々に咲く花、道端の雑草…

八百屋さんの店先では

「とびきり美味しいよ!早く買ってー」」

と合馬の筍が流し目で呼んでいるこの季節。

国産の筍は値段が高くて

(もう少し安くならないかしら…)

と迷っているうちに季節が終わってしまうのがいつものこと。

むかしは合馬の筍にも負けない美味しい筍が手に入ったけど、それも遠い思い出になってしまった。

 

世の中はなんだかんだと騒がしい…

世界も政治もスポーツも。

想像もつかない事故のニュース、ひとは外から見ただけではわからないということを実感するニュース。ひとにぎりの楽しいニュースはどこかに紛れ込んでしまう。

思わず笑顔が出てくるニュースを見たい…

 


せめてちいさな花を見つめて歩こう。

 

 

存在してるのに見えてない

 

 

朝、神社の階段を降りていると足元に椿の花がたくさん転がっていた。

見上げても欝蒼(うっそう)と茂る緑ばかり。

赤い色は見えない。

(花はどこ…)

 

昼下がり、信号待ちでぼんやり空を見ていた。

雲一つない青空。

じーっと見ていると…

ぼんやりと白いものがあった。

月…とわかるまでほんの少し時間がかかった。

 

 

この季節のこの時間、月ってあのへんにいるのかな…

知ってるひとは知ってるけど、知らないひとは知らない。

……

 

信号を過ぎると車を停めて改めて月をながめた。

薄くてよーく見ないとわからない月を見ながら思った。

 

 

確かに存在しているのに見えてないものってあるよね。

 

 

ひとの感情とか…

 

いま職場ではちょっとした騒動。

五人体制でチームを組んでいた中の一人が突然辞めた。

ギリギリの人数で回していたので、一人抜けても大変なことになる。

シフトを組み直し、てんやわんやの毎日。

ウォーキングでずいぶん改善した腰が、悪くなったら元も子もない。

晒(さらし)でぐるぐる巻きにした上から更にコルセットで締めあげて仕事に入る日々。

 

それにしても…

突然、放り出さないとやっていられないほど、いっぱいいっぱいだったんだ。

会社に対する不満があったのは知っているけど、大人の分別で解決することは不可能だったのか。

いや、大人の分別で解決しようよ…

何かをやめるときこそ大人の底力の見せどころじゃないかな。

 

それが無理なら、せめて

「がんばってね!わたしも別のところでがんばる!」

前向きなことばを交わして別れたかった。

 

 

でも…

全部放り出したくなるようなことが存在していたのに、

同じ空間に居てなんにも見えてなかったんだね…

はるらんまん

 

朝晩は冷えるけど、ウォーキングにはちょうどいい季節。

一日の目標は八千歩。

多いときは一万五千歩を超えることもある。

そのおかげか腰痛は軽くなった。

 

咲き乱れる花々に目を奪われるけど、ただ花粉症がね…

むかし、急性蓄膿症で怒涛の治療をしたあと、鼻の中がすっかりきれいになったのが原因かどうか分からないけど、蓄膿症と入れ替わったようにアレルギー性鼻炎になった。

 

となりの部屋に移動しただけでクシャミ。

外に出るともちろんクシャミ。

夕暮れ時になると息もできないくらい鼻が詰まる。

枕元にティッシュペーパーの箱を置いて、寝る間もないくらい鼻を噛みながら

(あしたの朝まで生きているかしらん?)

と思うくらい息が苦しかった。

JRとバスを乗り継いで病院通いに余念がなかった。

「何に反応するか調べたの?」

って聞かれても

「調べたからって防ぐことはできないから」

無駄だと思うからしたことはない。

 

四十年の月日が流れ、いつの間にか花粉症で悩むことはなくなった。

飲み続けた薬がよかったのか、体質が変わったのか、老化でにぶくなったのか…

でも、いつ何に反応するかはわからない。お守りで薬は今も持っている。

 

 

”春といえば花粉症!”

ではなくなってから、ひたすら上を見上げて歩く日常。

うちで観てもすごい!

 

かつて

映画は映画館で観るものだと決めていた。

家だと映画に集中できない。

「昼間の誰もいない時間に観ればいいじゃん」

「セールスが来ても居ないふりすれば…」

(それはそうなんだけど…)

 

ところがこの歳になるとそうも言ってられない。

若かった頃のように思い立ってもさっと行けないもの。

あれこれ雑用が頭をよぎるし、なによりパワーがない。

映画が始まる時間を調べて、仕事の段取りを考えて、車を運転して…

(終わったら夕ご飯はどうするかな…)

はあぁ…

きんに君のように

「パワー!」

って力こぶで押し切れない。

 

そんなこんなで今日は朝一番の大事な用事を済ませると、テレビの前に座ってPrime Videoを楽しむことにした。

観るのはもちろん『トップガンマーヴェリック』

 

音楽が聞こえてきた途端、気分が上がってきた。

(家で見る映画どうなんだろう…)

と思っていたけど意外にもいい。

映画館の空気感とは違うまた別の新鮮な気持ち。

何より劇場じゃなくてもトム・クルーズの魅力は半端なかった。

 

始まるといきなりマッハ10に挑むシーン。

地球を俯瞰するダークスター。

その下に広がる雲。

わたしたちが見上げている青とは違う宇宙に広がる青の世界。

暗黒と青の世界を二分する真ん中を超音速で駆け抜けるマーヴェリック。

そのシーンを眺めているだけで

(もう充分楽しんだよ!)

という気持ちになる。だけど映画はこれからが本番。

こんなドキドキハラハラのときめきを二時間強。

Prime Videoさん、感謝です!

マーヴェリックにまた会える!

 

つい何ヶ月か前のことのように感じるのに…

何度も映画館に足を運んだのはもう二年前のことだ。

月日が流れるのは…うーん、速い…

 

あれからいろんなことがあった。

一日一日を悔いのないように過ごせているだろうか…

………

 

そうそう…

今日はマーヴェリックのはなしだった。

 

二年前の五月に映画が公開されると、時間をみつけてはいそいそ映画館に足を運んだ。

何度見てもワクワクが止まらない!

「いい加減にしたら…」

と言われてもやめられない。

こんなに好きだと思えるものを持っている幸運。

 

トム・クルーズの限界を突破しようとするエネルギーに魅せられ続けている。

膨大な準備に何年も時間を費やし、自分の身体の極限にも挑戦する。

映画が始まってすぐの空母から戦闘機が飛び立つシーン。

このシーンだけでも永遠に見続けられる…と思ってしまう。

映画にはトム・クルーズの自家用機も使用して撮影されたという。

あんなもの持っているなんて、ほんと想像がつかないね。

 

夢の世界のひと。

実際にそんなひとが身近にいたら、どんなだろ…

やっぱり疲れるかな…

 

バイクで疾走する姿に、

「さあ、いよいよはじまるぅー!」

恋愛模様もありつつの魅力いっぱいの『トップガンマーヴェリック』

全編に流れる音楽に興奮をかきたてられ物語が進んでいく。

 

 

続編も検討されている…なんて情報をみたら期待してしまうけど、そのときトム・クルーズはいったい幾つやねん…体持つのかな…

 

Prime Videoで見れるようになりました。

仕事の疲れと闘いつつ、マーヴェリックに酔いしれる夜を過ごすよー

問題はそれ?!…

 

玄関のドアがガタギシになったのはいつからだろう…

閉めようとすると…抵抗するんですよ。

ガタガタガタ、ギシギシギシ

引っ張っても閉まらないから

「ふんぐぅぅー…」

と、力をこめる。

ガッシャーン…大きな音をたてて閉まる。

 

 

(だれか直せる人いないかなぁ…)

いっつも考えていた。

 

そうだ!!

以前勤めていた会社の改装をしていた大工さんの顔が浮かんだ。

 

連絡するとすぐに駆けつけてくれた。

だけど(案の定)ドアを開けたり閉めたり眺め回していたけど原因は分からないよう。

何日かして

「ドアを交換したほうがいいかも…」

と見積書を持ってきた。

 

!!

金額を見て驚いた。

五十万を超えるとは思ってなかった。

見積書を見つめて呆然としているわたしに一生懸命説明する大工さん。

(たかがドア一枚に…?)

(一番安いドアでいいんだけど…)

(工事費込みだとそうなるのかな…)

(古い家に似合わないかも…)

・・・・

 

頭の中ではすでにどうやって断ろうかと、思考がシフトしている。

「ちょ、ちょっと考えます」

一旦帰ってもらった。

 

その後何度も連絡があった。

そのたびに思い切って頼もうかな…

いやいや優先順位はドアではない…

そんな大金使うならほかにもやりたいことがある。

 

決心がつかない。期待させるのも胸が痛い。

電話をもらうのもつらくなってきたある日、思い切って断った。

 

だけど、問題は解決していない。

ドアを閉めるたびに、ギシギシうなるドアがうらめしい…

無理やり閉めるから、家が揺れる。

ため息つきながら過ごしていたある日、突然ひらめいた。

 

(鍵穴にKURE 5−56でもさしてみようかな…)

物置から探し出してきた赤い缶。

おもむろに蓋を開けると、鍵穴にプシュプシュ!

えーい!この際だ!もっとさしちゃえ!プシュプシュ!

 

 

(さし過ぎたらまずいかな…)

ハッと我に返り手を止めた。

 

台所に戻ったわたしはコーヒーを飲むためにお湯を沸かし始めた。

コーヒーを飲み終わるとドアのことを思い出して玄関に戻った。

ドアを開けて閉める。

もう一度開けて閉める。

何の抵抗もなくドアが開閉してるじゃない!

 

誰もいない玄関で雄叫びをあげた!

「問題はそれだったのかーい!」

 

 

春が翔(か)ける

 

 

二、三日前まで川には子ガモの姿があった。

いつも三羽ではしゃいでいるのが微笑ましかった。

今日は姿が見えない。

親鴨も離れたところでのんびり泳いでいたのに、どこを見渡しても姿がない。

 

 

あっ!

ぽつんと一羽…

 

朝から冷たい雨が降っていた。

北へ帰る日がきたのだろうか…

サンサンと陽がさしたり、冷たい雨が降ったり、こうして季節は移っていく。