社会人になって最初の夏が終わろうとしていたときの話。
いつもの朝、電車を待っていたわたしは掲示板に貼ってあるポスターを見つめていた。
「今年のクリスマスは、華麗にダンスを踊りませんか?」
というような内容だった。ような…って。あまりにも遠い記憶ではっきり憶えていないのだ。
ダンスサークルの勧誘のポスターに釘付けになった朝。
毎日仕事で目がまわるような忙しい日々を過ごしていた。どのくらい忙しいかというと、高校を卒業して半年で十キロ痩せるくらい。
「後ろから見ると、誰だかわからないね」
と、だれもが口をそろえた。
そんな忙しい中サークルに行くための時間をどうやって捻出するか…
何をするにも結論が出るまでに長い時間がかかってしまうわたしが、このときばかりは結論を出してそれからどうするかという順番になっていた。
次の週には仕事を何とか切り上げて、ポスターに書いてあった住所を目指して電車に乗っていた。電車を降りると地図を頼りに二十分くらいテクテク歩いた。
会場の公民館に着いてみると、芋の子洗いのように人で溢れていた。
(こんなにダンスを踊りたい人がいるんだ!)
プロの先生はいないらしい。サークルのメンバーで上手な人が先生代わりに教えていた。
とりあえず整列させられて
「ワン、ツー、スリー」
と、みんなで足を揃えて動き出した。
油断すると前の人にも後ろの人にもぶつかるくらいの大人数。優雅なステップとはいかないけど、何だこれは!楽しい!メチャメチャ楽しいじゃない!
仕事一辺倒だったわたしの生活が、突如バラ色に変わった秋だった。
仕事は大好き。だからダンスに現(うつつ)を抜かすことはないのよ。週に一度のダンスの練習は皆勤賞で頑張ったけれど、あとの週五は目の色変えて仕事に励んだ。
今と違って、マイカーもない。電車を乗り継ぎ、練習場所に行くのもたいそう時間がかかった。だから、もうとにかく慌ただしい毎日だった。
さて、冬が来て目標だったクリスマスパーティの日がやってきた!
どんなおしゃれをしたのかはよく憶えていないけれど、なんとか覚えたブルース、マンボ、ジルバそれからワルツやタンゴも華麗(?)に踊ったよ。
クリスマス用に飾り付けされた公民館でワイワイ、ガヤガヤ、夢のような楽しい時間が過ぎていきました。
目標のクリスマスパーティが終わった。これから、どうなるんだろう…
「サークルに残って、これからも一緒に練習しませんか」
声をかけられたときには、目の前がパッと明るくなった。
芋の小洗いの人数はこの会場では無理。選ばれた何人かがサークルに残ることになった。
こうして、わたしは生涯の趣味となる社交ダンスに出会ったのでした。