むかしむかし、こども達が幼稚園に通っていた頃のこと。
我が家には
『早くしなさいおばけ』
というおばけがいた。
そのおばけは夜ではなく、朝出てくる。
「早くご飯食べなさい」
「早く歯を磨きなさい」
「早く洋服を着替えなさい」
「早く靴を履きなさい」
こどもの後ろには『早くしなさいおばけ』がついてまわった。
こんなに付きっきりで出てこられると、おばけなのにちっとも怖くない。
幼稚園を卒園して、小学生になっても、相変わらず『早くしなさいおばけ』はいた。
「小学生になると違うわねー!楽になったわー」
とか言っているのに、それでもやっぱりおばけは現れる。
それに加えて、いつの間にか『もうなんでおばけ』までが出てきた。
「もう!なんで早くしないの?」
「もう!なんで宿題やってないの?」
「もう!なんで言うこと聞かないの?」
「もう!なんで早く寝ないの?」
あれから何十年の月日が流れ、いつの間にかおばけはどこかに姿を消してしまった。
おばけのことを思い出したのは、一歳の孫を見ていたとき。
保育園に通う孫は、朝はそれなりに忙しい。
親ではなく、おばあちゃんの立場になったわたしは、できないこともゆっくりなことも、見ていて全部が微笑ましい。
(できなくても、命奪われるわけでなし…)
なんて思いながら、見守っている。
親の都合なんて考えないで、好き放題やっていると思っていたけど、こどもはこどもなりにやるべきことは分かっっていたんだろうなと、孫を見ていて気がついた。
大人の行動をじっと観察しているこどもは、次にやることをひとつひとつその小さな頭の中で学んでいく。
早く!早く!と、お尻を叩かなくてもちゃんとやれたんだ!
もう少しで二歳になる孫が、身を持っていろんなことを教えてくれる毎日です。