森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

月の誘惑『月光浴』

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1998年、姉と二人で写真展を見に行った。

その時、なぜその写真展を見に行くことになったのかは憶えていない。

姉から誘われたのか、新聞か何かで見かけてわたしのほうから誘ったのか…

 

エレベーターを降り会場の前に着いた。暗くて中がよく見えない。

ドキドキしながら会場の中に一歩足を踏み入れた。

 

 

たちまち月のエネルギーが降りてきた。

 

月の淡い光だけで撮影された幻想的な写真がどこまでも続く。

会場に足を一歩踏み入れた瞬間、心奪われて姉とことばをかわすこともなく夢中で見て回った。見終わると最初に戻って一枚一枚時間をかけて見て回った。

 

もともと空に浮かんでいる月を見るのが大好き。満月も細い線のように見える二日月も、見上げてそこに月が浮かんでいれば、立ち止まって見とれてしまう。

見上げる月は、淡い黄色のときもあれば、濃いオレンジに見えるときもある。どの色もどの形もわたしのこころを虜にする。

 

写真展では黄色い月はひとつもなかった。

ぼーっと白い月らしきものが空にあり、それに照らされた山のかたちや木の影から月を連想させるものばかりだった。それなのにこんなにも強烈に月を感じるのか!

ことばもなく長い時間写真の前から動けなかった。

 

いつまでも見ていたいけど、そんなわけにもいかない。後ろ髪引かれながら会場をあとにした。

 

(あの月をもう一度見たい)

調べてみると、次の日曜日が展示の最終日だった。

幸運に感謝しながら、もう一度月に会いに行った。



2013年のこと。

買い物の途中で本屋に立ち寄ったわたしを、棚に並んでいた本の中の一冊が手招きしていた。

(と、感じた)

「宙の月光浴」石川賢治

わたしとの再会を待っていたかのように微笑んでいた。

 

今、その本は勿論わたしの部屋にある。

あなたも、こころが真空になりたいとき、お役に立てますよ!

 

お試しあれ!