今と違って家の中も外も、夜中は漆黒の闇だった昭和三十五年ころのお話。
夜中にフッと目が覚めた。
天井を眺めて
(あれ?)
真っ暗闇の夜中、天井が見えるはずがない。
首を回すと…
窓の外からすごい光が部屋の中に射し込んでいた。その光が天井を煌々と照らしていたのだ。
(なんだろう?)
布団から抜け出すと窓から外を覗いた。
光からの距離は三百メートルくらいあるだろうか。こちらに向かって、まばゆい光がまっすぐに延びていた。大きな一つの円形の光だ。ということは自動車のライトというわけではなさそう。
それに、その時代自家用車を所有している家は、周りに一軒もなかった。
不思議なことに、わたしはその光を怖がっていない。
(人一倍小心者のわたしなのに…)
相対時するように、わたしは勇敢にもその光を二階の窓からまっすぐ受け止めた。
………
長い時間のような気がしたけど、ほんの数秒の出来事だったのかも知れない。
そのあとの記憶はない。
夢現(ゆめうつつ)にどこかに連れて行かれたような気がする。宇宙人がわたしのまわりを取り囲んでいたような……
いやいや、夢で見た何かの記憶が錯綜して、それを勝手に宇宙人と結びつけているのかもしれない…
連れて行かれても、戻る時に記憶を消されるとも言うし、果たして…
六十年ほど前のお話。
さて、現実か、夢の中のできごとか…
「わたし、宇宙人に会ったことあるよ。宇宙船の中にも入ったかも知れない」
小さな声で秘密を打ち明けると、誰もが必ず困った顔で下を向いてしまうので、その時は
「冗談!冗談!」
と、慌てて打ち消します。