森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

記憶が抜け落ちていく

 

わが家は母と三姉妹。女が四人。

家の中に男は父一人だけ。

一人でも存在感は半端じゃない。

 

父の靴が玄関にあるとそれだけでシュンとなった。

(多分わたしだけ…)

姉と妹はどうだったのか知らない。

 

幸いなことに仕事と自分の趣味に没頭している父は、家を留守にすることが多かった。

父が出かけていれば女ばかりの城。

楽しいことがいっぱいあった…

と思う。

 


大学生になった姉が、覚えてきた料理やおやつ作りを家で披露している。

それまで見たことのないホットケーキやグラタンなど横文字の料理。

興味津々で見つめる母とわたしと妹。

 

酢の物は天下一品だったけど、料理はあまり得意ではなかった母が

姉の料理を思い出しながら奮闘していた。

うまくいくこともあれば

「あれー!これは…」

と散々な出来栄えにみんなで大笑いしたり…

 

という思い出話を妹がしている。

「へぇー!」

その度にまるで知らない話を聞くように答えているのはわたし。

……

 

(そんなことあったっけ…?)

いつもそう思った。

妹は食いしん坊だから食べ物の話は全部憶えているんだね。

と笑い話にしていた。

 

でも…

そうではないのかも…

みんなの笑い顔の中でわたし一人がことごとく首をひねっていた。

「なんで憶えてないの?」

と言っていた妹もいつのまにか気にしなくなった。

 

 

最近になって思う。

きっとわたしの頭の中には大きな空洞があるのだ。

その中に入りこんでしまうと楽しい記憶も悲しい記憶もするりと抜け落ちてしまうらしい。

すべてを忘れてしまうわけでもない。

憶えていることが散在してるからそのことに気がつかなかったのだ。

 

さて、抜け落ちていない、つまり選ばれた記憶の正体は?

過去に思いを馳せてみたら解るのだろうか…