森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

学問、芸能、掃除…?

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姉妹三人。

それぞれ得意分野がある。姉は学問、妹は芸能、わたしは…掃除。そう!わたしは掃除大臣!

 

姉は父の期待を一身にうけて、昼も夜も机に向かっていた。どうしたらあんなに長い時間勉強ができるんだろう。わたしと妹は父が諦めているのをいいことに、勉強する気はさらさらなかった。

 

小学校も中学校も高校生になってからも、夜中に目が覚めて灯りの方を覗いてみると、一心に勉強している姉の姿があった。

(机と一体化しているんじゃない!)

と、ツッコミを入れたくなる。

 

 

一番びっくりしたのは、姉が大学生になったとき。

近所のお兄ちゃんも知り合いのお姉ちゃんも大学生になると、これまで我慢した腹いせのように遊び呆けていた。

(ふーん、大学生になると勉強はしないのだな)

ところがそうではなかった。

「勉強するために大学に入ったのよ」

それが、姉だった。子供の頃から大人になって、それからもずっと勉強は続くのよと教えてくれた姉。

「尊敬している人はだれ?」

と聞かれて、

「お姉さん」

と答えたら、誰もがエッという顔をする。

 

明るい妹は絵も上手。歌も上手。踊りも得意。高校生になると演劇部に入って

「アッ!ウッ!」

とやっている。

「何をやってんの?」

と聞くと、腹式呼吸の練習だと。

腹式呼吸ならできるかも知れないけど、演劇部って人前に出るんでしょ?

あーわたしには無理だわ。

 

わたしが得意なのは掃除。物心ついたときからホウキ片手に遊んでいた。

時々、触れるのをためらうほどきれいな部屋に通されて、固まってしまうことがある。ホコリ一つなくて、ピカピカに光っている床。直角に並ぶ雑誌の群れ。そこに居るだけで緊張感が高まってくる空間。

 

わたしは片付いているけどなんかホッコリ落ち着くね!という感じが好き。

部屋が片付いたら美味しい珈琲を淹れて、楽しみにしていた本を開く。

 

暮れの大掃除で実家に集まると、掃除大臣のわたしは俄然張り切りますよ。

マイ掃除道具を両手に抱えて集合すると、この時ばかりは姉と妹に指図する。浴室は姉、台所は妹。わたしはトイレを担当する。時々、進行具合を確認するために見回る。

(もともとさばけている姉と妹だから、わたしがケチをつけるところはないのですが…)

 

盆と暮れに実家に大掃除で集まっていたころが、胸が痛くなるほど懐かしい。

 

こんなわたしなので、掃除の仕事なら引く手あまたのはずと、お掃除の会社に面接に行ったら、年齢であっという間に落とされた。

 

六十を過ぎていたからね。

「力仕事、できないでしょ?」

が、理由だった。

(何言ってんだろ、力だけじゃないんだよ。技と工夫で勝負する自信があったのに。

もったいない人を落としてしまったね!)

 

心の中で毒づきながら、会社をあとにした。