毎年秋になると田舎で一人暮らしをしている祖父から、ダンボールいっぱいの柿が送られてきた。柿が届くと母が丁寧にお礼の手紙を書いていたのを思い出す。
学校から帰った姉が、嬉しそうに両手いっぱいに抱えて自分の机に運び込む。
机の柿が空っぽになると、またダンボールから補充する。
柿が大好物の姉は勉強に疲れると、おもむろに一個取り出し丁寧に皮を剥く。それを幸せそうに頬張っていた。
姉にとっては柿の皮を剥いているあいだも、大事な息抜きの時間だったのね。
勉強をする暇がなかった(暇じゃなくて、やる気かな)わたしと妹は、そんな姉の姿を見ながら大きくなった。
いつものように送られてきた柿が玄関先に置いてある。
油断していると気がついたときには、柿がなくなってしまう!
早く外に遊びに行かなくてはならないわたしはあせって考える。
とりあえず姉が帰ってくる前に、少しだけでも確保しておこう。
ダンボールに首を突っ込み、美味しそうな柿を選りすぐると
(さて、どこに隠そうか…)
すぐに目につくところだと見つかってしまう。あちこち見て回ったあげく、乾物をしまってある戸棚の奥にそーっと置いた。
(ここなら見つからない)
それから、ずいぶん経ったある日のこと、何か食べるものはないかと戸棚をのぞき込んでいると
(くんくん…?)
何やら変な匂いがする。
(……)
(あーっ!もしかすると!)
戸棚の奥をこわごわ見ると、熟してオレンジ色の液体状になった無残な柿が…
もちろん、母に散々怒られました。
柿の次に思い出すのが、冬になると黄色くなる姉の手のひら。
今と違って食べるものが豊富ではなかった時代でも、ミカンは各家庭箱買いして好きなだけ食べていた。
姉は勉強の合間にせっせとミカンを食べる。いつも外で遊んでばかりいるわたしや妹よりもたくさん食べる。
食べ過ぎて姉の手のひらはいつも黄色かった。それが可笑しくて
「手を見せてー」
姉の手を見て笑い転げていたわたしと妹。
大人になった姉はいつの間にか食べるものだけではなく、それ以外のことも厳しく律する人になっていた。
好きなだけ柿やミカンを食べていた姉の姿をこんなにはっきりと憶えているのに、自分にとても厳しく生きたことも憶えているのに、その姉はどこにもいない。
八月になると
「誕生日がくるよー」
まるでそこに姉がいるかのように、わたしと妹は空を見上げて話しかける。