森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

遠い日のカンナ

ひとりで川の横を歩いていた。

田んぼのあぜ道に真っ赤な花が咲いているのが見えた。

(カンナだ…)

遠目にもわかる強烈な色。

 

その日から川の横を歩くときは吸い寄せられるようにカンナを見つめた。

(枯れないうちに撮っておこう…)

歩く度にそう思うのにすぐには実行に移せないのが今のわたし。

 

朝息子と歩くときもカンナを見ながら歩いた。

年寄りはハンカチを持つのが精いっぱい。スマホは重い。

(早く撮らないと枯れてしまう…)

そう思っているのに、いつまで経ってもその日は来ない。

スマホを持って歩きに出るなんて若い人の専売特許だ。

 

 

 

 

小学生のわたしがひとりで歩いていると、線路の脇にカンナが咲いていた。

強烈な赤い色に思わず立ち止まって見入った。

……

真っ青な空を背景に突き上げるような力強さ…

その日から学校帰りの時も、用事で通る時も吸い寄せられるようにカンナに目がいった。

疲れを知らないカンナは来る日も来る日も枯れることを忘れたように咲き続けた。

 

ある日のこと、一本だけ摘んで帰ろう…と思い立ったわたしはカンナのそばに近づいた。

カンナに手をかけると、力を込めた。

びくともしない…

(えっ!)

更に全身の力を込めて引っ張った。

びくともしない…

 

どのくらいの時間そうしていただろう。

小学生の女の子が必死の形相でカンナと格闘している…

見かけた人がいたら

(一体あの子は何やってんだ?)

と笑い出してしまっただろう。

 

髪を振り乱し汗びっしょりのわたしは放心したようにカンナを見つめた。

カンナはその見た目だけじゃない。

強くていつまで経っても枯れない花。

そして素手では摘めないというのをその時学んだ。



 

田んぼのあぜ道に咲いているカンナを見かけたわたしの頭の中に、小学生のわたしの姿が浮かんだ。

親の苦労も人生の厳しさも知らない…

ただ無邪気にカンナと格闘していた幼いわたし…

 

 

 

 

一緒に行くという孫も連れて歩きに出たわたしは、ようやくスマホを持って出た。