森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

銀杏小径(ぎんなんこみち)

 

朝がずいぶん涼しくなってきたので、また息子と歩きだした。

 

暗いうちから庭の片隅で草取りをしていると、

「一緒に行く?」

と息子が聞く。

あたまから吹き出るような汗が嫌で断っていた。

 

昼間は相変わらず暑いけど、朝早いうちは爽やかな風が吹く。

(歩こうかなー)

腰痛対策にもなるよね。

急いで準備して息子の後を追った。

 

川を過ぎ神社まで来た。

見上げる階段は

以前は感じなかったけど、

(高いなー)

と思った。

一歩踏み出せばあとは勢い。

七十段あまりの階段は

…難なく上がれた…

 

 

ちょっと息があがったのも受け入れて、登りきった境内を眺める。

ぎんなんの黄色い実がたくさん落ちていた。

想像していなかった景色に立ち止まる。

 

 

むかし姉とぎんなんの実を拾いに出かけた情景が浮かんだ。

夢中で拾いながら、顔を見合わせては

「すごい匂いだね…」

「でも、皮をむくと茶碗蒸しのぎんなんだよね…」

他愛のない話をしながら、いちょう並木を移動した。

 

皮を向いたぎんなんを見ても姉は浮かんでこないのに、皮をつけた強烈な匂いを発するぎんなんだと、いちょう並木と共に姉のすがたが浮かぶ。

(なんだろね…)

 

 

生きていれば八月に姉は誕生日を迎えたはず。

もう姉の歳を四歳も超えてしまった。

超えてしまってもやっぱり姉はいつまでも姉で、わたしは未熟な妹のままだ。