森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

小さなナイチンゲール

 

ぽっかり時間ができると

(待ってました!)

と断捨離に励むわたし。

 

 

今日は午前中で仕事が終わった。

帰宅して、早速クローゼットに向かう。

 

(徹底的に片付けるよー)

と思っていても必ず陥るのが

(あっ、これは捨てられないな)

(もうちょっと様子見ようかな)

という、捨てるか捨てないかの闘い。

 

そうやって集めた不要なものが、勝手口の外に積み上がっていく。

ひとつひとつを見直したりすると、

(あっ…やっぱり捨てるのやめよう…)

ということになるので、鬼のこころでゴミ袋の中に放り込んでいく。



ゴミ出しの日の朝。

ゴミを捨てたらその後は仕事。ぐずぐずしている暇はない。

両手でザーッとゴミ袋に詰め込んで、そのまま集積場まで走った。

 

(やれやれ…)

居間に戻ると保育園へ行く孫が制服に着替え終わってわたしを待っていた。

あとは髪ゴムで二つ結びをしてあげると、孫も準備万端。



孫がしきりにわたしに何かを言っている。

「なーに?どうしたの?」

孫はわたしの手を指差して

「血が出てる!」

(えっ…)

右手の小指から血が滴り落ちていた。

(いつの間に?何で切ったんだろう?)

 

何事も思い立ったら怒涛のスピードでやっつけるわたし。

いつどこで切ったかなんて、分からない…

そんなことより血を止めて傷の手当しなくちゃ!

 

孫はわたしを制すると、救急箱の中から絆創膏を持ってきた。

ぎこちない手で袋を破るとテープを取り出しわたしの手に貼ろうとする。

「その前に血を拭かなくちゃね」

わたしのことばに大きく頷くと、手を洗ってガーゼできれいに拭き取るのを見つめる孫。

 

見たことのないような真剣な目をした孫が、慎重にテープの紙をはがしてわたしの指に巻こうとする。

なかなかうまくいかない…

テープが変なところにくっついてしまう…

「んんー……」

どうやってもこうやっても三歳の孫には難しい作業だろうなー。

 

(むかーし、わたしにもこんな真剣な眼をした日があったなー…)

そんなことを思いながらじっと身を任せていた。

ついこの前まで赤ちゃんだった孫が、おばあちゃんを何とかしなくちゃと頑張っている。

最近はイヤイヤ期に入ってなかなか大変な日々なんだけど。

(頼もしいねー…)

 

保育園に行く時間が迫っているけど

「早くしてー」

とは、決して言わないよ。

悪戦苦闘する孫をじっと見つめた。