森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

一生分の親孝行

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二歳になったばかりの孫は、テレビを見ながら腰の後ろに手を当てて踊るようなしぐさをしきりにする。

音楽が聞こえてくると体が自然に動きだすのは、わたしと同じね。

『おもちゃのチャッチャッチャ』

の曲をかけると、がぜん張り切って動きだした。

どうやら、保育園の発表会の踊りの練習をしているようだ。

 

しばらくして、保育園から発表会についてのお知らせが来た。

コロナ禍のいま、見に行けるのは両親だけらしい。

なんと!わたしは見に行けない。

(ざんねん!)

 

舞台の上で映えるように、可愛く髪を結んでもらった孫は元気いっぱい出かけていった。

わたしは、せめて動画で楽しもう。

孫だけ見れればいいわたしは、息子と嫁に

「ふたりで違うアングルから動画とってきてね」

と、念をおした。

ふだんあんなに芸達者の孫のことだから、これは楽しみ…!

 

 

小春日和の爽やかな天気のなか、三人で保育園から歩いて帰ってきた。

「どうだった?」

息子たちは顔を見合わせると、

「それがねー…」

 

孫は直立不動のまま、歌って踊る周りのお友達をただ見ているだけだったらしい。

「えー!そうだったの…」

 

考えてみれば、十分ありえることだった。

人前で何かをするのがものすごく苦手だったわたし。わたしの血を引く息子の、こども…

 

ところが、息子にとってはそんなことはもうどうでもいいことになっていた。

「舞台に並んでいる中で一番可愛いかった!」

(えっー!それって…)

「そんなことより、帰り道を歩き通したんだよ」

「一キロくらいあるのに、すごいでしょ!」

自慢する息子。

(ふーん、すごいね!)

あんなに楽しみにしていた発表会は、もうすっかり過去に放り投げている息子。

…苦笑いするわたし。



そんな息子を見ているうちに

『三歳までに一生分の親孝行は終わっている』

ということばを突然思い出した。

泣いた顔、笑った顔、駄々をこねてる顔、何処を切り取っても、見ているとつい笑顔になってしまう孫のしぐさ。

 

思えばかつてのわたしも、幼い息子たちに大きなしあわせをもらった日々が確かにあった。あの頃のわたしと、娘を見つめている息子の姿が重なった。

 

生まれてきたすべての人が、等しく父や母をしあわせにした過去を持っているのだろう。

孫を見ているとき、そのことを確信する。

 

そして、こんなわたし自身も…幼かったずっとずーっとむかし、

父と母に幸せな笑顔を届けたのだと思いたい。