森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

鼓舞する儀式

 

長いこと勤めた職場から開放されたころのこと。

次はどんな仕事をしようかとワクワクでいっぱいだった。

とは言っても、すでに六十代。

やる気はあっても、雇ってくれる会社があるだろうか…

ハローワークで片っ端から紹介してもらっては、面接を受けた。

(やっぱりね…無理ですか…)

何社面接を受けても『不採用』の通知。

諦めかけていた頃、幸運にも事務員さんの仕事にありつけた。

 

(イエーイ!)

新しい職場に通い始めたのですが…

 

仕事にはすぐに慣れた。

各店舗から集まる現金を数えて、銀行に預けて、帳面を整理して…

初めて社会人になった頃していた仕事と全く同じ。

懐かしんで入る隙はないほど忙しかったけれど、楽しくてたまらなかった。

 

だけど…

ひとつだけ問題が…

 

毎月必ずある会議と、不定期に(二ヶ月か三ヶ月に一回くらい…)ある会議。

それが…苦手だった。

その月、順番で当たった人が皆んなの前で決意とか目標とかを述べなければならないのだ。大声で…

(大きな声じゃないと、やる気がないとでもいうように)

 

若い頃から、ずんずん歳を重ねてもどうしても苦手なのが、人の前で自分をアピールすることだ。

各地区から集まった責任者と事務員と、本社から来た偉い人。

「ちょっと、待ったー!」

気を抜くとすかさず指摘されるから、みんな真剣!

 

仕事の楽しさと、会議の緊張感を天秤にかけていたわたしは…

二年で辞めた。

仕事は大好きだったんだけどねー…

 

またも仕事探し。

求人情報誌で探した会社に就職した。

今度は営業の仕事。

各家庭を訪ねて営業をするのは、大勢の人を前にしないからいけるかと思ったのに…

 

毎朝朝礼で、自分のやる気と目標を大声で叫ばなければならなかった!

あー…無理。

三ヶ月で辞めた。

 

世の中には、黙々とひっそり、それでもちゃんと仕事をしている人も大勢いるのに…

目を吊り上げてやる気を鼓舞することが、やっぱり必要なのかな。

 

今は、母と同年代のお年寄りを前に、楽しく仕事をしている。

(自分の行く末の姿だなー)

とか、思いながら。

それは明日かも知れないし、まだまだ時間は残されているのかも知れない…

その日まで、体力さえ続けばここで頑張らせてもらおーっと!