森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

始まりの日の希望の光

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足腰が大丈夫の間はがんばって続けよう…

ちょっと弱気になっているじぶんを叱咤激励するために

「初日の出見に行く!」

と、宣言した。

 

いつもなら途中で眠りこけてしまう紅白歌合戦もしっかり見て、除夜の鐘も聞いた。

令和三年は静かに暮れていった。

 

元旦の朝七時過ぎ、息子と待ち合わせて家を出た。

 

父が生きていた頃から、雨でもない限り元旦の朝は山を目指した。

ゴルフで鍛えた父は、軽々と山道を登っていた。

山のふもとに大勢の人が集まり、賑わっていたのはもう何年前のことだろう。

お神酒が用意され、温かいぜんざいが冷えた体に嬉しかった。

初日を拝んで、清々しい(すがすがしい)気持ちになった知らない同士が

「おめでとうございます!」

と、口々に挨拶していた光景。

年々訪れる人の数が少なくなり、山は寂しそうだ。

 

 

麓についてみると、自転車がポツンと一台。

誰の姿もなく、シンと静まり返る山の麓を見て

「あれ!?」

「どうしよう…か」

途端に不安になるけど、ここまで来てやめる決心もつかない。

「よし!行こうか!」

息子の一声で、出発した。

 

誰か一人でもいないだろうか…そんな気持ちで登り始めた。

不安な気持ちを打ち消すように、小走り状態だ。あまりにペースを上げて登っていたので、突然頭の中が真っ白になる。

(うー…気分が悪い…自分の歳を忘れていた…)

振り返った息子が、わたしの後ろに回ると背中を押してくれた。

「無理せんでね」

「休み休み登るよ」

そんな会話をしながら、上を見上げると人の姿が見えた!

(よかったー!わたし達だけじゃなかった)

 

着いてみると先客は四人だけ。山が輝き始めた頃、もう一人男の人が登ってきた。

総勢七人で、初日を拝んだ。

山の稜線を煌々(こうこう)とオレンジ色の光で覆っていく光景に、誰もが無言だった。

(自然を前にした人間なんて、豆粒ほどのものでしかないんだなあ…)



今年は年賀状を一枚も書かなかった。長い人生で初めてのことだ。

(もう、そろそろ年賀状は卒業しようかな…)

という思いはあったけれど、そんなわけにはいかない。書こう…書こうと思いながら、とうとう一枚も書けなかった。

 

長く生きていれば、こんな年もあるさ…

 

来年も再来年も、輝く初日(はつひ)を見れたらいいけど、そんな先のことは分からない。

まずは、始まりの日の希望の光に感謝しながら、ゆっくり山を降りた。