母が入院して一ヶ月があっという間に過ぎた。
わたし達の祈りが通じたのか、入院して二週間で母は新型コロナを克服した。
感染病棟から一般病棟に転院した母の状態を妹が聞きに行った。
仕事が休めなかったわたしのために、病院での様子を報告に妹がやって来た。
話を聞きながら、わたしは次第にうつむき加減になっていく。
今まで暮らしていたホームと決定的に違うのは、ここは病院だという現実だ。
治療のための日々が過ぎていく中で、母は感情をひとつ…またひとつと失っていった。
ホームには母の大好きな職員さんがいた。
(笑顔で話しかけてくれるあの職員さんはどこにいるのだろう…)
母がそんなふうに思っている気がした。
コロナはわたしと妹から大切な『お母さん』を奪っていく。
「コロナがなくても、同じでしょ!」
というわけではない。コロナが治っても母と触れ合うことはできないのだ。
時折、笑顔をふりまき楽しいことばを聞かせてくれた母。
ひとつ望みが叶うなら、布団を三つ並べて
「あんなことあったね!こんなことあったね!」
父のこと、姉のこと、幼かったころの思い出を語りながら、更けていく夜を過ごしたい。