大晦日の夜。紅白歌合戦が終わると、妹と二人でおせち料理の仕上げにかかった。
もっと早い時間にするはずだったのに、時間の配分をまちがえてしまった私のせいで、こんな遅い時間になってしまった。
わたしが来るのをじっと待っていた妹は
(まったく、もう…)
という心境だったろう。
最近のわたしたちは、年をとっていくことを受け入れる覚悟ができてきたのか、ずいぶん寛容になった。むかしのように苛立ったりしないで、やり過ごせることが増えた。
一年に一回だけ天袋から取り出される重箱を、妹が運んできた。
わたしが作ったのは黒豆だけ。ずらりと並んでいる料理は、朝からせっせと妹が作った。
紅白のかまぼこの横にだし巻き卵を詰めて、南天の葉を飾る。
黒豆の横には、白い大きな花豆。豆大好き一家なので金時豆もある。手のかかる栗きんとんも、ちゃんと裏ごしして大量に作ってある。
庭で収穫した唐辛子を入れて、ピリリと辛い紅白なます。メインは大鍋いっぱいのお煮しめ。
ひとり黙々と詰めるわたしは、お姉さんが見たら即、お説教だろうな…と考えている。
お作法に則り(のっとり)美しく重箱に詰めていた姉の姿がまぶたに浮かぶ。
ぜんぶ姉にお任せだったから、姉があんなにあっけなく旅立ってしまうなんて思っていなかったから、わたしは並んだ料理の前で途方に暮れている。
あれからもう四度目のお正月というのに…
施設にお世話になっている母は、このところ不穏が続き、妹と二人で会いに行ったけれど顔を見ることも叶わなかった。
今、わたしがこの家の年長者なのだ。
(えーい!ままよ!わたしの思う通りにやるしかない!)
覚悟を決めて、おせち料理を重箱に詰め終わった。
令和四年は寅年。今年わたしは年女なのです。
十二年ぶりにやってきた寅年の幕開け。
年末に生活環境が一変した。できると思っていた仕事は、予想に反して悪戦苦闘の日々。
七十二歳になっても、挑戦の日々は続く。
せっかく重ねた年齢。ここは何事も包み込む力を養う年にしたいと、静かな闘志を燃やす
寅の顔をしたわたし!