森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

探しものは見つかりましたか?

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はい!

突然、目の前に現れました。

 

一ヶ月ほど前のことになる。

ある日、家の鍵が忽然と消えた。

(わたしがそのことに気がついてないだけで、あとから考えると予兆はあった…)

 

(これは大事なもの)

って自分に言い聞かせているのに、慎重に扱っているつもりなのに、ある日突然消えてしまうことってありませんか。

(歳とってのあるある…)

(それにしても、最近多すぎる…)

そういうことが、めっきり増えた。

 

消えた家の鍵は、散々探し回っても出てきそうにない。仕方なくスペアキーを作ることにした。

ところが、そのキーをひと目見た途端、鍵屋さんは

「あー…これは、普通の鍵と違うので作るのに三週間ほどかかります」

「えーっ!何故?」

「特許期間中の鍵なので、勝手に作れないんですよ。金額も三千円ほどかかります」

そんな……

三週間も待てないし、スペアキーに三千円もかけるなんて…

 

 

お店の人がじっと見つめるなか、わたしの頭の中はフル回転。

向かい合った二人が、ずっこけるほどの時間が過ぎたあと

「じゃあ、作らなくて結構です…」

すごすごと店を後にする。

鍵に、特許うんぬんがあるなんて知らなかった。世の中には、知らないことがまだまだたくさんある。

 

それから後は、ピンポン鳴らして鍵をあけてもらってという不便な生活が続いた。

自分ひとりではできないことが、こんなことで増えていく。



ある朝のこと。

保育園に行く準備も済んで、孫と二人で遊んでいた。

大きなかごの中に入れたブロックを、孫が大胆にザーッとひっくり返す。

(あー!朝の忙しいときに、やめてー)

なんて叫びませんよ。

広げたブロックで、いろんな形を作っては

「できたー!」

と叫ぶ孫を相手に、わたしも負けじと作っていた。

 

ブロックとブロックのすき間に銀色の金具のようなものが、チラッと見えた。

そのままブロック遊びをしていたわたしは、ふと銀色のものに焦点を合わせる。

 

「あっ!あっ!あったー!」

家の鍵が燦然(さんぜん)と輝いておりました。

 

キーホルダーから抜け落ちた鍵は、家の外ではなく家の中のブロックの中に隠れていたのです。小躍りするわたしを不思議そうに見つめる孫。

 

「鍵を見ませんでしたか?」

と、あちこちに声をかけていたわたしは早速、鍵があったことを報告して回る。

 

慌ただしい日々を過ごすわたしの小さな、けれど大きな(嬉しい)出来事でした。