森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

存在してるのに見えてない

 

 

朝、神社の階段を降りていると足元に椿の花がたくさん転がっていた。

見上げても欝蒼(うっそう)と茂る緑ばかり。

赤い色は見えない。

(花はどこ…)

 

昼下がり、信号待ちでぼんやり空を見ていた。

雲一つない青空。

じーっと見ていると…

ぼんやりと白いものがあった。

月…とわかるまでほんの少し時間がかかった。

 

 

この季節のこの時間、月ってあのへんにいるのかな…

知ってるひとは知ってるけど、知らないひとは知らない。

……

 

信号を過ぎると車を停めて改めて月をながめた。

薄くてよーく見ないとわからない月を見ながら思った。

 

 

確かに存在しているのに見えてないものってあるよね。

 

 

ひとの感情とか…

 

いま職場ではちょっとした騒動。

五人体制でチームを組んでいた中の一人が突然辞めた。

ギリギリの人数で回していたので、一人抜けても大変なことになる。

シフトを組み直し、てんやわんやの毎日。

ウォーキングでずいぶん改善した腰が、悪くなったら元も子もない。

晒(さらし)でぐるぐる巻きにした上から更にコルセットで締めあげて仕事に入る日々。

 

それにしても…

突然、放り出さないとやっていられないほど、いっぱいいっぱいだったんだ。

会社に対する不満があったのは知っているけど、大人の分別で解決することは不可能だったのか。

いや、大人の分別で解決しようよ…

何かをやめるときこそ大人の底力の見せどころじゃないかな。

 

それが無理なら、せめて

「がんばってね!わたしも別のところでがんばる!」

前向きなことばを交わして別れたかった。

 

 

でも…

全部放り出したくなるようなことが存在していたのに、

同じ空間に居てなんにも見えてなかったんだね…