森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

かえってきたのか猫ちゃん

 

一年前の春

 

「猫の赤ちゃんがいる!」

息子の声にびっくりして庭に出てみた。

庭の隅っこの南天の根元のところ。

こわごわ覗き込んでみた。

確かに猫らしき生き物が…

よーく見ようと身を乗り出した途端

『フヴゥーギャー!!』

ものすごい威嚇の声。

 

慌てて後ろに下がった。

親猫が必死の形相でわたしを睨んでいた。

(何もしないから。ただ見るだけ…)

というわたしの思いが通じるはずもない。ひとまず退散。

 

次の朝

「子猫が三匹いる!」

と新聞を取りに行った息子が言っている。

そのまた、次の朝

「三匹じゃない!四匹だ!」

毎朝一匹ずつ増えて、結局五匹の猫がいることがわかった。

 

(どうしよう…)

近所に猫好きのおじさんがいる。相談してみようか…

判断がつかないまま、一日一日過ぎていく。

 

朝すやすや眠っているのをそーっと見て仕事に出かけていた。

ところがある日、帰ってみるともぬけの殻!隣の奥さんが

「親猫が一匹づつくわえて、引っ越ししてたよー!」

「えーっ!」

親猫がでかけている間に、一匹だけ家に連れて帰ったら気がつくかな…

そんなことを思ったりしていたわたしは、残念なようなホッとしたような複雑な気持ち。

どこに引っ越したんだろう。

その後、姿を見ることはなかった。



今年、庭で気持ちよさそうに昼寝しているのは、もしかして去年の…?

(なつかしいわー…この陽射し…やわらかい笹の葉のベッド…)

(猫よけのピッピなるやつは勘弁だけど、ここなら大丈夫)

なんて思ってるのかな。



愛犬桃が旅立って五年。

癒やされる時間に憧れるものの、生き物を飼う覚悟がどうしてもできない。

庭でくつろぐ猫ちゃんを見かけると、

(飼ってみたいな…)

(うーん…無理かな…)

悩ましい春が過ぎていく。