ママは今から大事な電話をしなくてはいけない。
居間で遊んでいた娘をチラッと見た。
「二階に行こうか!」
「行くー!」
わたしと二階に上がるサプライズに孫娘が目を輝かせた。
得意気にわたしを案内する孫。
二階は思ったとおり明るい日差しがあふれていた。
川に面した窓を開けると、迫ってくる青い空。
この家に引っ越したときから、一番好きな景色が見れるのがこの窓だ。
「お空を見よう!」
窓のそばに椅子を持ってくると、孫を抱きかかえて上がらせた。
息子に見られたら
「あぶない!」
って怒られそう…
落ちないように後ろからしっかりと抱きしめて、二人して身を乗り出した。
それほど大きくないのにこの窓から見る川は、のどかでとても雄大に見える。
息子がまだ独身のころは、時々この窓から川と空を眺めていた。
孫は初めて見る景色に目をまんまる。
孫のおばあちゃんが突然天国に旅立った。
一週間前に会ったばかりのおばあちゃんに、もう会えないことを孫は知らない。
わたしではない、もうひとりのおばあちゃん。
先週、母の四十九日をすませた。
病院に駆けつけたときも葬儀のときも、涙を流さなかったわたしは四十九日の朝初めて激しく泣いた。施設に入ってたから実感が湧かなかった母の死が、突然現実のこととしてわたしに迫った朝だった。
青い空を見上げていると母がじっとわたしを見ている気がした。
「さよなら お母さん…」
空を見上げてはしゃいでいた孫は
「さよならー」
と、わたしを真似て言った。
さよなら!また明日ね!
とは違うさよなら
幼い孫はまだ、そのさよならの意味を知らない。