森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

 人生はどこに曲がり角があるかわからない

 

(いつの日かあそこに住みたい…)

と、憧れている団地があった。

年に何回か行われる抽選会に申し込んでは

(あー…今年もだめだった…)

 

なにしろ家賃が安い。

新しいし、職場には歩いて行ける距離だ。

(当選するまで諦めないわよ)

何回申し込みをしたのか憶えていないくらい応募してようやく当たった!

それが2004年のこと。

(最後の引っ越しになるんだろうな…)

そう思っていた。

 

ところが一年後、予想もしていない展開になる。

ワンちゃんと暮らすことになったのだ!

はっきりと断る選択肢もあったはずなのに、わたしはそうはしなかった。

それはもう、そういう運命だったのだろう…

ワンちゃんはあっという間にわたしのこころを鷲掴み(わしづかみ)にしてしまった。

 

ただ一つ問題が…

団地で動物を飼ってはいけないという規則。

 

びくびくして暮らすわたしに、申し訳ないと思ったわけでもないでしょうに、桃(ワンちゃんの名前です)はそれなりに静かに、出かけるときはキャリーバッグにぴょんと入って、息をころした。

 

近所のお年寄りは、ニコニコ笑顔で愛猫を抱いて井戸端会議しているし、犬の散歩も堂々としているけど…

(みんな、やってることじゃん)

(だれにも、迷惑かけてないし)

 

桃を見つめてつぶやく。

「お日さまの下で散歩ができる家に引っ越そうかー」

 

実はもう、こころの中は決まっている。

悩んでいるのは、じぶんを納得させたいからだ。

 

あんなに憧れて引っ越してきたこの家。

でも、わたしは息を殺して暮らすことを望まない。

それが、答えだった。

 

家探しが始まった。

女ひとりと一匹。