森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

ひとりになる

窓の外に広がるのは、青い空と白い雲。

平和な時間が流れる昼下がり。

空をもっと眺めようと身を乗り出した。

 

すると、

道の左側からディズニー犬(と言いたくなるほど絵になるワンちゃん)が現れた!

今日は昼間の散歩なのね。

家の横の川の向こうの家の奥さんとワンちゃん。

 

このワンちゃん、漫画の世界からフワリと抜け出してきたのか!と思うほど愛らしい。

(何という犬種なんだろう?)

いろいろ調べたけど分からない。

足が短くて、胴が長くて、茶色の長い耳が歩くたびにフッサフッサと揺れる。

ピョンピョン飛び跳ねるように歩く姿に、わたしの目はいつも釘付け!

 

一緒に歩く奥さんもきっと楽しくてたまらないだろうな…

見かけるわたしまで笑顔になるよ。

そんなことを思わせる光景だった。



それから

何年か過ぎた。

いつの間にか奥さんが一緒に歩くのはワンちゃんではなくて、ご主人らしき男性だった。

(ワンちゃんはどうしただろう…)

………

 

奥さんと男性は並んでウォーキングをしていた。

やがて、奥さんが振り返りつつ気遣いながら歩いているのを見かけるようになった。

 

またさらに何年か過ぎた。

いつの間にか二人のすがたを見かけることもなくなった。

見かけないから、奥さんのことはすっかり忘れた。

 

 

 

奥さんがワンちゃんと散歩していた頃から七年ほど過ぎた。

 

家の前をおんなの人が歩いていた。

あの奥さんだった。

黒い帽子、黒い上着、黒い靴。

今のご時世だ。わずかに見える顔は白いマスクで覆われていた。

 

下を向いてじぶんの足元を見つめて歩いている。

もう一緒に歩く人はいなかった…

 

うしろ姿を静かに見送った。