ちょうど一年前のこと、
妹とわたしは母を整形外科に連れて行くために施設に迎えに行った。
亀さんのようにゆっくり歩く母の手を引きながら、大切な時間を噛みしめた。
あれからたった一年しか経っていないのに…
新型コロナは世の中を一変させただけでなく、母を遠いところへと押しやってしまった。
今はもう母の具合が悪くなっても、わたしたちにはできることが何もない。
お医者さんが往診してくれて、処方された薬を施設の職員さんに飲ませてもらって、細々と母は生き延びている。
車でわずか十分しか掛からない場所で、家族ではないひとに囲まれて生きている。
認知は少しづつ進んでいたけど、時間を見つけては母の施設を訪問していた。
母をお世話してくれる職員さんの笑顔に包まれて幸せそうだった母。
コロナで寝たきりになった母はその施設にはいられなくなった。
噛み合わない会話に吹き出しながら過ごしたあの時間は、どこを探してももう戻ってこない。
若いころから自分の感情を表に出すことがなかった母。
当たり前のように受け入れていたけれど、今更ながらその凄さを思い知る。
つらい思いをすることが日常だったはずの母はどうやって、身動きの出来ない人生から自分を解放していたのだろう。
理不尽な状況もやり過ごして、淡々と母は生きてきた。
人の感情が伝播するというのも確かな事実だけど、そんなことに流されない人生もあるよ…と母は体現してくれた。
激しい感情に翻弄されるじぶんが大嫌いだったわたしにとって希望となった。
そのときには何も分かっていなかったけれど…
日常のさりげない暮らしの中でしっかりと生きるんだよ。
母はそのことを教えて、夢の世界に行っちゃったのかな…