森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

母の覚醒…復活?!

  

 

 

新型コロナに感染した母が、入院してから二ヶ月が過ぎた。

(高齢の母が回復できる望みはあるのだろうか…)

と、不安な思いを抱えていたわたし達。

ところが、母は二週間で新型コロナから回復したのだ。

 

新型コロナは克服したけれど…

寝たきりになった母は、感情が抜け落ちて無表情になった。

 

(もう、母の笑顔は見れないかもしれない…)

会いに行った妹は涙ぐんでわたしに報告した。

(でも…生きていてくれるだけでいい…)

そう、思うしかなかった。

 

病院では寝たきりになった体を、元に戻すためのリハビリが続いていたけれど、これ以上の回復が見込めない母は退院することが決まった。

退院は決まったけれど、以前居た施設に戻ることは叶わなかった。

受け入れてくれる所を探さなくてはならない。



施設探しを始めたわたし達の前に、母を受け入れてくれる老人ホームが見つかった。

古い民家をリフォームして作られた小規模の施設は、まるで大家族が寄り添って暮らしているような、暖かい空気が流れていた。

見学に行ったわたしと妹は、顔を見合わせて頷いた。

 

二ヶ月間お世話になった病院を退院して、これから母の住処となる施設への移動にわたしは同行できなかった。

夜、妹から小さな引っ越しの様子を聞いた。

 

「お母さん!退院だよ。家に帰ろうね!」

と、声をかけると無表情だった母の顔が一瞬動いたのだという。

「家に帰ろう!が理解できたのだと思う」

妹のことばに、わたしも深く頷いた。

理解できたのならば、母にとって何と幸せな響きだったことだろう!

 

施設での昼食の時間。

妹が介助して美味しそうに食事をしている母の様子を動画で見ることができた。

「うまい!美味しい!」

を、連発しながら幸せそうな母。妹の明るい声。

母が意味のあることばを発したのは、いつ以来だろう。

「以前のように、またわたし達のこと分かる日が来るかもしれないね!」

 

その日は妹の誕生日だった。

「嬉しい誕生日になったね!」

実家に帰ったような、暖かいこのホームで母は復活するかもしれない!

 

それは決して夢ではない気がする。