森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

じゃあどうするか

 

ある日、突然

(どうしよう…)

ってことが起きて、焦ることありません?

途方に暮れるくらい大きなことだったり、小さなドッキリ程度なことだったり。

今日は、つい最近の焦りまくったお話し。

 

わたしの仕事は、施設でお昼ごはんの準備と片付け。

出来上がってきたおかずを、それぞれの利用者さんに合わせて盛り付けていく。

お粥にしたり、小さく刻まないといけなかったり、塩分制限の人は漬物を外したり…日々刻々と変化していく状態に対処しなければならないから

(働くわたしにとっても、頭の体操…ボケ防止になるわ)

とありがたく思っている。

決められた時間に間違いなく食事を提供するというのが大前提。

 

その日

流しや調理台などを拭きそうじしながら、おかずが届くのを待っていたわたしの前で、シュシュッと勢いづいていた炊飯器が突如静かになった。

(あれ?…)

(なんで静かになっちゃったんだろう?)

次の瞬間!

布巾を持ったわたしの手が炊飯器のとりけしボタンに触れたのに気がついた!

慌てて炊飯ボタンを押したけど反応しない!

焦って何度もスイッチオン!

だめ!入らない…

 

(拭きそうじなんかしないで、静かに待っていればよかった…)

後悔先に立たず…

このままではお昼ごはんに間に合わない!

(どうしよう…)

炊飯器が熱くなっているから、反応しないのだ。(たぶん)

炊飯器を違うのに交換しようか…

お釜を取り出して冷やしてみようか…

 

届いたおかずを必死で盛り付けながら、頭の中はフル回転。

その間にも何度かスイッチを押したけど反応なし。

(どうすればいいのだ…)

 

途方に暮れたわたしの眼が窓の外の社長の姿を捉えた。

いつも多忙でなかなかつかまらないのに、今日は何という幸運!

「社長ー!」

血相を変えたわたしの姿に驚いた社長が

「何?何?どうした?」

 

事の顛末を聞いた社長は、炊飯器のスイッチを切ると途中まで炊けたごはんを取り出し

「今日は雑炊にしよう!」「雑炊の準備!」

「は、はい!」

メニューの変更は勝手にはできない。(今日は幸運だった!)ホッとしてわたしは時計を見上げた。

「時間が押してます。手伝ってください!」

大鍋に出汁をとり野菜を刻み溶き卵を用意して、大急ぎで雑炊の準備ができた。

 

無事に時間内に提供できそうだと見通しついたところで

「ありがとうございました!あとは一人で大丈夫です」

「はい。では、あとよろしくお願いします」

と言って社長はサッといなくなった。

「朝から何やってんの!」

と叱責されていたら、焦っていたわたしはどうしただろう…

 

最近は、判断するのに時間がかかるし、思いついても行動にサッと移せない。

そのうえ物を落としたり、ぶつけたり…

他人と切磋琢磨して成長する時期はとっくに終わっているわたし。

そのことを自覚しているから、仕事をさせていただくことに感謝の気持ちでいっぱい。

(それなのに、いろいろ失敗はするのよねー…)

 

わたしの失敗に対して、ひとことの小言もなかった。

大事なのは

「じゃあどうするか」

だ!と、示してくれた今日のことをわたしはこころに深く刻んだ。