森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

相手を選ばない癒やすちから

 

犬を飼うなんて縁のない世界だと思っていた。

でもうちに帰ると犬がいる。

 

「ワンワン鳴いて騒いだらダメよ」

「静かにお留守番をしててね」

言い聞かせて仕事にでかける暮らし。



ある日のこと。

押し入れの中からキャリーバッグを出して桃を振り返った。

桃はピョンとバッグに入ると、静かにうずくまった。

車にのってエンジンをかけると

「もう出てきて大丈夫だよー」

ファスナーを開けると、ヤレヤレ…と顔を出す桃。

 

目指すは実家。

わたしの新しい家族を紹介するのだ。

 

あいにく父は不在だった。

ちょっと悪戯しようかな…

誰もいない居間に桃を残して出かけた。

 

用事を済ませて実家に戻る道すがら。

(びっくりしただろうなー…)

想像すると笑いがもれてくる。

 

ところが…

居間に入ってみると…

父が桃を膝に乗せてロッキングチェアで揺れていた。

桃も薄目を開けてわたしを確認すると、また目を閉じた。

(あれ?)

 

「お前が飼っている犬か?」

「びっくりするじゃないか!」

という質問をされると思っていたのに。

 

こどものころ怖くてたまらなかった父。

その父を相手に何事もなかったように寛いでいる桃。

 

あの父を一瞬で癒やしてしまうんだね。

相手は選ばないんだね。