森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

流血事件

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平成元年、整形手術(!)をした。

 

詳しく言うと前髪の生え際にポツンとあるイボをとった。



こどもの頃からずっと一緒に生きてきたイボ。五ミリくらいの大きさのイボはその中心に黒いホクロがある。

前髪で隠れているので、あまり気にしていなかったけれど美容院に行くと

「アッ!すみません!」

ブラシに当たって美容師さんが平謝りするのがいつものことだった。

「大丈夫です。痛くも何ともないので」

 

そのやりとりが急に面倒だなと思ってしまった。ちょうど再就職も決まった。

(いい機会だ。とっちゃおう!)

 

 

タウンページで皮膚科を探すと、早速出かけた。

「髪を解くたびにブラシが当たるので、取ってください」

小さなイボ。特に難しい手術ではない。

 

ベッドに横になっていると先生がメスを持って枕元に現れた。

麻酔をしていざ切除を始めた途端、先生が悲鳴をあげた。

「えっ!どうしたの?」

わたしはベッドに横になっていて分からなかったけど、出血が想定していたのとは全然違ったらしい。頭の中を液体が流れる感覚はあったけれど、わたしには見えない。

うろたえた先生の様子で、大変な量の血が流れているらしいのがわかった。

 

あわてながらも、何とか先生は手術を終えた。

出血が多いといっても、たかが五ミリくらいのイボの切除。丁寧な縫合をして、抜糸までの期間も通常より長めにとってもらって病院を後にした。

 

さて、充分な期間を空けて病院を訪れたわたしを前に、先生は腕組みをして考えている。

迷った挙げ句という感じで

「時間をしっかりとったから大丈夫でしょ。抜糸しましょうか」

自分に言い聞かせるようにつぶやくと、早速抜糸にとりかかった。

躊躇いながら先生が最初の糸を抜いた途端、血がジガーっと出てきた。

「あーっ!やっぱり…」

大急ぎで抜糸を終わらせると絆創膏で厳重に傷を押さえて、先生は安堵のため息をついた。

 

先生に申し訳ない気持ちでいっぱいのわたしは

「出血しやすいんです」

と、小さな声でつぶやいた。

「ええ−っ!」

「なぜ、そのこと最初に言わなかったんですか!」

 

(いろんな病気もして、手術や治療もしてきて、特に異常があるとは言われてないし…

普段の生活の中で、出血しやすいのかなーと漫然と思っていただけなので、言わなかったんですけど…)

と、心のなかでは言い訳があったのだけど、大量出血に動揺していた先生は

「もうー、言っといてよー!」

 

(それも分かります)

 

三十年以上の前の流血事件でした。