はじめまして!わたしの名前はきりり
はるか遠い未来と思っていた七十代にあっという間になった!
働き盛りの四十代五十代が過ぎて還暦を迎えたとき
「なーんだ!還暦って騒いだけど、これまでと何も変わらないわー」
と、思ったのは三年ほど。それを過ぎると、うーん!これまでと何か違う気がする!と首をかしげるようになった。すぐにきついきついって言ってしまう。気が滅入ることも増えた。
還暦ってやっぱり大きな節目なのね。
六十代の十年間は、歳をとっていくじぶんを徐々に受け入れることを求められる時期だろうか。
そうすると、七十代は六十代と何が違うのだろう。
出来ないことがますます増える自分に寛大になろうよということ?出来ていたことが出来なくなって、ため息つきそうになるのを
「まーいいかー」
とあきらめる?
七十代になったじぶんを観察してみると、何はともあれ体力が落ちた。いつも体のどこかが痛いと言っている(と、まわりから言われる)
わたしには関係ないわと思っていた血圧の薬を、朝晩飲まなければいけなくなった。少し落ち着いて
「もう、いいかな」
と勝手にやめたら血圧が急上昇。病院の先生に叱られた。
そして、わざと後回しにしているけど、いちばん感じているのは記憶力の低下。かたっぱしから
些細なことも大事なことも忘れる。
『だいじょうぶか?じぶん』
こころの中はこの問でいっぱい。
どきどきはらはらの七十代の始まりです。
七十代になっても変わらないのは本を読む習慣。いつも何かを読んでいないと落ち着かない。
友人たちは
「この歳になると字を読むのは疲れるわー」
と、本に夢中になれるわたしに驚く。確かにメガネなしでは字は読めない。でもそれが本から遠ざかる理由には全然ならない。だって経験することができない世界にもあっという間に連れていってくれるし、才媛にも美女にもなれる(本に没頭しているあいだだけどね)
平凡なわたしには縁のない優雅な世界があたまの中にひろがる。ジャンルは関係ない。わたしの前に現れた本との出会いは一期一会。
午後の長い時間を本に没頭していたわたしはパタンと本を閉じ、現実の世界に戻ってくる。
「さあ、ごはんの支度をしなくちゃ!」
と勢いよく台所に直行。元気をもらったわたしは、きっとおいしいごはんを作れる!(ということにしておこう)
読む本がなくなって図書館に行こうかと迷ったけれど、今は新型コロナウイルスである。本屋さんに行くことにした。
あれこれ手にした本をパラパラめくっているときに目にとまったのは、わたしと同じ年の作家さんの本。男性。そこで見つけた言葉に惹かれてすぐに買ってしまった。
『しあわせの領域にいる人より、不しあわせの状況にいる人の方が圧倒的に多いのが世間というものである』
他人をながめて、苦労なんてなさそうと人を羨むことがよくある。世間の大半の人は安穏と暮らしているようにみえる。笑顔の裏にある苦労を想像できなかった若いころは、人を羨んでばかりいた。
「みんな大変なんだよね」
古希を迎えてしみじみと実感しているわたし。
わたしの部屋の本棚に落ち着いた本は、一喜一憂、右往左往するわたしを静かに見守っている。