森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

お姉さんの檸檬(れもん)

 

檸檬の花が咲き始めた。

 

ついこの間まで、去年の檸檬が一つだけ最後の力を振り絞って枝にしがみついていた。

(新しい花が咲き始めたというのに、どうしちゃったのかしらね…)

健気な檸檬の姿に摘んでしまうのが可哀想で、摘みそびれていたら色あせてしまった黄色。

 

 

檸檬の樹の下は、今は猫ちゃんの昼寝の場所。

(あらまあ!すっかりわが家きぶんだね)

立ち止まって見つめると

「何か?」

とでも言うようにわたしを見返す。

「いやいや、そこはわたしのお姉さんの場所だわ!」

 

 

 

色あせた檸檬はその後も雨風に打たれながら必死にしがみついていた。

ある日、

ポトン…

下は柔らかい草なので音がするはずもないのに、落ちた音が聞こえた。

 

 

 

姉の命日が近づいている。

もう五年経った。

草の中に見えるくすんだ黄色が、別れの記憶を呼び覚ますこのごろ。