「のどが痛い。風邪ひいたかなぁ」
と、浮かない顔をしていた息子が病院に行くと言っている。
「えっ!病院に行くの?」
病院に行くほど酷いようには見えないので思わず聞いた。
世の中は”新型コロナウイルス”で大変なことになっている。熱が出ないうちに、まだ鼻水だけで済んでいるうちに何とかしなくちゃと、本当に行っちゃったよ。
薬をたくさんもらって来ると、まだ宵の口というのに早々にふとんにもぐりこんでしまった。
そんな騒ぎを横目にわたしは元気だった。
のはずだった。
ところが、のどがイガイガすると思った翌朝、声をだそうとしたら見事におじさんの声になっていた。えーっ!なんてことだ!
この程度のことはコロナがなければ何にも気にしないのだ。もともとのどは弱いから、すぐに腫れるし痛いことなんてしょっちゅう。でもそんなこと言っていられない日々が続いている。
一日も早く元の美声(?)に戻りたーい。
わたしの思いをよそに、おじさん声からついに
「アーッ!イーッ!」
声が出なくなってしまった。そのうえのどがイガイガして咳がでる。
じぶんの口から発する、声にならない声を聞いているその時、突然思い出した。
亡くなった父がことのほか愛用していた『龍角散』の銀色の缶。
父は龍角散の粉末を口の中に放り込むと、しばらくしてその粉を鼻からふわーっと噴き上げた。鼻の穴から霧のように降ってくる粉をわたしたち姉妹はあんぐり口をあけて見とれた。
そうやって口と鼻の穴の中に、龍角散の成分をいきわたらせる父。
「不思議な光景だったねー」
と、妹と二人して父の姿を思い浮かべる。
うん、うん。
たしかにこどものころ、龍角散は無敵の薬だった。風邪をひいた、のどが痛いというと父が必ず龍角散を持って現れた。
出勤の途中コンビニに飛び込むと、龍角散の飴を探した。いくら無敵の薬といっても、父のように粉を鼻から噴き上げるなんてわたしには無理。龍角散、龍角散と唱えながら飴を探していると、あった!!
車に乗り込むと飴を口の中に放り込んだ。
十秒くらい経っただろうか。イガイガが治まってきた。
(本当に効く!)
あまりの効果にビックリ!
半信半疑のわたしは、のどに意識を集中させる。
三十分位するとまたイガイガが戻ってきた。そしたら、飴を口に放り込むというのを繰り返していたら、いつの間にかイガイガ怪獣はいなくなった。
それ以来、「龍角散ののどすっきり飴」はカバンの中の必需品に加わった。
おそるべし!龍角散!