昼下がりの平和な時間。
誰にも邪魔をされずに、窓際で本を読んでいた。
ふと、のどの奥にかすかな違和感!
「えへん!」
「おほん!」
と、小さな咳ばらいをする。
目は活字を追いながら、ジガーッとのど全体に広がっていく違和感に気が付かないふりをしようとするわたし。そんなの無理な努力。もう完全に気がついてしまったよ。
いったん本をとじる。
のどをひとまわりした違和感は矛先(ほこさき)を食道の方へと向けた。徐々に痛みへと変身していく。
わたしをあざ笑うように強い痛みへと変わると、今度は下に向かって進み始めた。
食道の下の方というか、胃のあたりというか、そのへんで暴れまわる痛みにじっと耐える。
キリキリとでもなく、刺すような痛みとも違う。壁を強い力でえぐられているような感じ。
もう、長い年月をその痛みへと付き合ってきた。今更うろたえたりしない。
痛くなったら台所へ向かう。
お湯を沸かし、湯のみにお茶をたっぷり淹れて
ゆっくり、ゆっくり飲む。
はあー
……
それで治まることもある。
熱いお茶を飲んでも効かないときは仕方ないから、胸を押さえて痛みが過ぎ去るのを待つしかない。
病院でいろいろ検査してもらっても原因は分からない。なんとかなりませんか?と、すがるわたしに先生は
「気の持ちようでしょ!」
と、おっしゃる。調べても何も出てこなければ、そういうことになるかなあ。
気の持ちようであんなに痛むか!と言いたいところだけど、何十年も付き合って今だにこうやって生きているから、まあ、気の持ちようなんでしょうかね。
それに、この痛みは短いときは五分くらい。長くても三十分くらいで治まる。頻繁に起きるときはちょっと憂鬱になるけど
(しかたないさー)
と明るく受け止めることにしてますよー。
ところで、この原因のわからない痛みはわたしひとりのことだと長年思っていた。
短い期間に何度も何度も起きることもあるし、前回はいつだったっけ?と思い出せないくらい長いこと起こらないときもある。痛んでないときは気にならないのだから、発作さえ起きなければ忘れている。だから、
「実はねー」
と、口に出すこともなかった。
ある日、妹と話をしていて偶然、同じ発作が妹にも起きていたことを知った。妹もずいぶん若いときから起きていたのだという。
(そうだったのー!)
と、いうことは
(なーんだ!体質ってことで片付ければいいじゃない!)
だったら、腑に落ちる。体の作りが他人と違ってそうなっているんだ。
何だかわからないけど、そういう体質の家系なのね。
「今度発作が起きたら、熱いお茶をゆっくりゆっくり飲んだらいいよ!」
おねえちゃんは、やさしく妹に教えてあげたのでした。