森野きりりの漂流日記

容姿もダメ頭もよくない、おまけに性格も悪いと自分を否定することしかしなかった女の子が、人生の荒波の中で「いやいや何も取り柄がなくても大丈夫さー」ということに気が付いていく長い長いお話です

夏が過ぎ…秋の気配

口癖のように暑い暑いと連発しているけど

いつの間にかすぐそこまで秋が忍び寄っている…

 

畑の中で好き放題に茎を伸ばしていたゴーヤたちが妙に慌ただしい。

じろりとゴーヤを見つめると…

あわてて整列した。

「気をつけー!」

「小さい順から並んでー!」

「急がないと夏が行っちゃうよー」

     

 

 

「連日三十五度を超えています。猛暑どころじゃない、四十度に迫る酷暑に注意!」

「こまめに水分をとりましょう!」

天気予報の度に繰り返される連呼を、ため息をついて聞いていたのに…

 

立秋を過ぎたら、あら不思議。

朝晩が不快な暑さではなくなり、つけっぱなしだったエアコンのスイッチを慌てて切るようになった。

 

明け方にテレビをつけたら、テレビショッピングでおせち料理の注文の番組が流れているではないか!

秋の気配を感じた途端、背中から追い立てられる。

 

季節だけのことではないんだな。

時代のはなし。

 

テレビは裕福な家だけの特権だった時代。

あのころは、時間がゆっくり流れていた。

道が舗装されていないから、雨が続くと靴が泥だらけになったけど…

電話は各家庭に引いてないから、大急ぎの時に電報を打って驚かせることもあったけど…

自家用車なんてないから、親子五人で魚釣りに行くのもテクテク歩きだったけど…

川の横を歩いていると、

「モーー!モーー!」

牛はどこにもいないのに、牛の鳴き声の大合唱。

怖くて一目散に川から逃げていたけど…

いつしかウシガエルがいた川もなくなり、川があったところにはアパートが立ち並ぶ。

 

不便で不自由だったのになー…

何故こんなにもむかしを懐かしむんだろうね。

文明の発達をきついなと感じ始めたのは、歳をとったからだけだろうか。

……

   

 

秋の気配を感じて空を仰げば、そんなことばかり考えるね…