ずいぶん歳をとってから
(わたしって、先端恐怖症なんだ…)
と気がついた。気がついてみると
(あー、そうだったのか…)
と思い当たるふしがいくつもある。
包丁は、流しの下の扉にはしまわない。
引き出しか、包丁が入っているとは分からない入れ物にしまう。
先の尖ったペティナイフはキッチンペーパーで丁寧にくるんで、目に触れないところに隠す。アイスピック、キリは背中がゾワッとするから、とにかく見えないとこに。
出かけた先で、無造作に置かれた包丁やハサミを見かけると
(見えてないことにしよう…)
と言い聞かせる。
幼い頃よく叔母に連れられて映画に行っていた。
あの頃見ていたのは、時代劇がほとんどだった。
何の映画かはもう分からないけど、
”真剣白刃取り”
なんてシーンに出くわすと、震えるほど怖かった。
あれは子供だから怖かったんじゃない。
先端が怖かったのだ。
ようやく合点がいった。
仲の良い友人は、閉所恐怖症だ。
わたしが平気で受けてるMRI検査ができない。
狭い検査器械の中では、工事現場の真ん中で寝ているようなゴンゴンガンガンの大音響。
その中でわたしは居眠りできる。
包丁に怯えるわたしと違って友人は、先端を見ても平気だ。
神様はいろんな弱点をそれぞれに与えてくださっている。
その中で、どうもがくのか試されているのだろうか…