むかしむかしの話。
父は結婚した娘たちが実家に集まる週末をとても楽しみにしていた。どのくらい楽しみにしていたかというと、毎週末宴会をしておもてなしをするくらい。
料理はいつも姉と妹が作った。母とわたしは何やら仕事をしているふりで、そのへんをうろうろしているだけ。
(母はお嬢さまだからしかたがない!)
わたしは料理には自信がないから、口も出さないし手も出さない。
テーブルに料理が次々に並ぶのを、母と二人で監督しながら宴会が始まるのを待つ。
そうそう!ひとつだけわたしにも大事な役目があった。
並んだ料理の味見をしなくちゃ!
「美味しいねー」
「そうじゃなくて、味がどうかを言って」
「だから、美味しいよ」
「何を作っても、美味しいしか言わないんだから」
いやいや!ほんとうに美味しい。それ以外の感想があろうか。
二人はとても料理上手。魚屋さんの回し者かというくらい魚料理が上手な妹と、お作法に厳しい姉。見事な包丁さばきで出来た料理を姉が美しく盛り付けていく。
わたしと母は…やっぱり出る幕がない。
働き盛りで、子育て真っ最中で、何もかもが忙しくてバタバタしていたあのころ。
年月が過ぎ、こどもたちも巣立った。
それから
父と姉は天国に旅立ってしまった。
「わたしより先に逝ってしまった」
と、泣いていた母は、もうそのことも忘れてしまっている。
姉がいなくなった哀しみを胸に抱えるわたしと妹は、顔を合わせるとけんかをする。
「聞いてない!」
「いや!確かに言ったよ」
「だから、聞いてないって」
言ったつもりで実は言ってないのか、言ったのに聞こえてなかったのか、もはや二人にはわからない。
「けんかしないで、仲良くしなさい」
と、こどもに諭される。
(わかっているのよ。こうやってコミュニケーションとっているのよ)
(こうでもしてないと、淋しくてやるせないよ)